ACCAの受験戦略

ACCA:選択科目はどれを選ぶべき?【筆者の実例&ご提案】

どうも、クマガワ@Kumagawa_Pro)です!

 

さて、前回の記事では、「科目の順番」の“選択”について私見をお話しいたしました。

 

そして、科目に関する“選択”といえば、ACCAには「選択科目」が存在します。

最終盤の科目群であるProfessional Moduleでは合計4科目に合格する必要がありますが、

そのうちSBR(Strategic Business Reporting)とSBL(Strategic Business Leader)は必須科目でして、全ての志願者が受験しなければなりません。

一方、残りの2科目は4科目の中から2科目を選択する制度になっています。すなわち、

AFM(Advanced Financial Management)

APM(Advanced Performance Management)

ATX(Advanced Taxation)

AAA(Advanced Audit and Assurance)

の4つから、自分の好きな科目を2つ選んで受験することになります。

 

この点は、既定の4科目(FAR、BEC、AUD、REG)全ての受験が必須であり、科目を選択する余地の無いUSCPAとは異なる特色といえます。

(※2022年11月現在の情報です。2024年からUSCPAにも選択科目が導入される予定だそうです。)

 

今回は、ACCAの選択科目(Options Papers/Options Exams)について、

「どの科目を選択すべきか?」のヒントになるようなお話をさせて頂きたいと思います。

 

筆者の場合 & 正直な話…

私自身は、AFMAPMを選択いたしました。

……というより、特殊な事情が無い限りは、大抵の人はこの選択に行き着くのではないかと思います。

 

というのも、残るATXとAAAは、それぞれ税法と会計監査という、制度あるいはテクニックを学習する科目だからです。しかも、ほとんどの人にとっては、普段の仕事やプライベートとは完全に無縁な内容です。

実生活には一切役に立たないシステムや技法を延々と頭に入れ続けるのって、メチャクチャ退屈で苦行だと思いませんか? たとえば、自分が全然興味の無いスポーツについてルールブックの細かいところまで覚えて下さいって言われたら、地獄以外の何物でもないですよね…? 縁もゆかりもない外国の税制を覚えたり、監査法人に勤めているわけでもないのに監査の手法を深掘りしたりするのも、「全然興味の無いスポーツについて細かいルールまで記憶する作業」と大差ないと思います(少なくとも私個人的には……)。

 

それに対し、AFMとAPMは、どちらかといえば普遍的な理論を学習する科目です。

AFMの学習内容は主に金融や経済に関する事柄ですが、金融や経済と無縁な会社や個人は存在しません。また、APMは直訳すると「高度な業績管理」ですが、ビジネスパーソンである以上、自分の部署や会社全体、あるいは“自分自身”の業績に無頓着でも許される人はいない筈です。

 

以上のことから考えますと、素直な直感に従うのであれば、多くの人はAFMとAPMを選択するものと思われます。学習内容についてATXやAAAよりも格段に興味を持ちやすい筈だからです。

 

なお、冒頭で「特殊な事情が無い限りは」と申し上げましたが、「特殊な事情」の中でも最も典型的と言えるのが「監査法人に勤務している場合」でしょう。監査法人にお勤めであれば、AAAの事例問題のようなお仕事を現実でなさっているわけですから、学習内容と実生活との親和性は非常に高いと考えられます。

また、その他にも、現在イギリス(※)にお住まいだったり、あるいは、お仕事でイギリスの税務が関わる業務に携わっていたりする場合は、ATXの学習内容を身近に感じやすいかと思います。

※ATXはイギリス以外の国の準拠法を選択することも可能です。ただし、選択できる国は限られています(そして、残念ながら日本は選べません…。)。もしご自身がお住まいの国や、お仕事で税務に携わっている国が選択可能でしたら、その場合も同様に、ATXを学習するハードルが下がることでしょう。

 

補足:実際の割合や人数について

先ほど「大抵の場合、素直に考えればAFMとAPMを選択する筈である。」と申し上げましたが、それでは、実際のところはどうなのでしょうか? すなわち、選択科目4つそれぞれについて、受験生の具体的な内訳や人数はどうなっているのでしょうか?

これについては、残念ながら不明です。まず、ACCAの協会のホームページには公開されていません。また、協会の方にメールで問い合わせましたが、そのような情報は非公開との事でした……。

 

本当にAFM&APMの選択で大丈夫?

さて、前述の通り、特殊な事情が無ければ、大抵の人はAFMとAPMを選択したいと考えるのが自然です。

ただ、私自身が実際にこの組合せで受験した感触で言わせて頂くと、決して万人にオススメできる選択でもないと考えております。というのも、AFMとAPM、どちらも実際に勉強や受験をして初めて分かる“厄介さ”があったのです。

 

まず、AFMですが、単純に学習内容が想像以上に高度でした。

私は証券アナリストの資格を持っているのですが、証券アナリストの時にはあまり深く勉強する必要のなかった事柄について、ACCAのAFMでは計算問題までしっかりと解けるレベルで習熟しなければならないことが結構ありました。たとえば、為替や金利の先物オプション、ブラック・ショールズ・モデル、リアル・オプション等の概念は、証券アナリストでは「名前と概要だけ知っていればいい。」程度の扱いでしたが、AFMではがっつりと計算問題まで解かされます。

私は証券アナリストを持っていたため、難易度が高い内容も何とか理解・習得することができました。しかしながら、証券アナリスト相当の前提知識を持たない受験生がAFMを選択した場合、合格レベルの知識や理解に到達するのは非常に大変ではなかろうか? というのが正直な感想です。

 

次に、APMですが、試験本番で実際に得点を稼ぐのが想定よりも遥かに難しかったです。

私自身の例で申し上げますと、本番直後の手応えは「7割ぐらいは取れたかな♪」と割と楽観的だったのですが、実際の点数は51点と、本当に合格点(=50点)ギリギリでした……。

APMで点数が取りにくい理由ですが、主に2つあると分析しています。

1つ目が、試験の問題がほぼ論述問題で構成されていることです。すなわち、計算問題のウェイトがかなり少ないのです。APMはPMの上位版に相当する科目ということもあり、一見「管理会計」のイメージが強いと言えます。そのため、計算問題が多いと予想してしまいがちです。ただ、実際には「経営学」の側面が強かった印象です。業績管理に関する理論や手法を“文章”で理解し“文章”で説明できるようになることが、APMでの主要な勉強内容でした。それを受けて、問題も論述形式が大半になっています。

とはいえ、「問題が計算ではなく論述が中心」ということは事前に把握が可能です。私自身もしっかりとその認識を持ったうえで試験本番に臨みました。それにも関わらず「7割ぐらいは取れたかな♪」と呑気に勘違いしてしまったのは、シンプルに採点基準が厳しいからだったと推察できます。これが理由の2つ目です。

以上のように、APMは学習内容が比較的身近であり、勉強中もあまり大きな苦労は感じにくいのですが、試験自体の難易度がかなり高いと言えます。しかも、「勉強量が得点に直結しにくい」という意味での難易度の高さですので、対策や解決が困難であり、非常に厄介だと思います。

 

各科目の特色

それでは結局、選択科目はどの2つを選べばよいのでしょうか?

それを議論するために、まずは選択科目4つそれぞれについて、科目ごとの特色を見ていきます。ここでは、①「学習内容の理解のしやすさ」②「試験本番での得点安定度」という2つの視点から、各科目を分析していきたいと思います。

 

なお、ATXとAAAについては、筆者自身は実際に受験しておりません。そのため、TX及びAAの内容から類推してお話ししているというのが実態です。何卒ご容赦頂けましたら幸いです……。

 

以下、★が増えるほど評価が高いことを意味します。

 

AFM(Advanced Financial Management)

学習内容の理解のしやすさ:★☆☆
試験本番での得点安定度:★★★

前述の通り、AFMで学習する内容は、証券アナリストの出題範囲すら凌駕するものも含まれており、かなり高度です。そのため、「学習内容の理解のしやすさ」は最低ランクと言わざるを得ません。

ただ、学習内容をしっかりと理解・習得さえできれば、試験本番ではかなり安定的に合格点が取れると思います。というのも、計算問題のウェイトがなかなか大きいうえに、論述問題の方も金融に関する概念や理論について淡々と説明していく感じのものが大半だからです。すなわち、「意見」が求められる問題が少なく、知識さえあれば「客観的」に解答が決まるタイプの問題ばかりなのです。

筆者自身も、AFMでは72点を獲得しました。他のProfessional Moduleの科目(APM、SBL、SBR)は全て50点台でしたので、AFMだけ突出して高得点だったと言えます。

 

APM(Advanced Performance Management)

学習内容の理解のしやすさ:★★★
試験本番での得点安定度:★☆☆

まず、APMに出て来る内容で、取り立てて理解が難しいものはないと思います(※)。しかも、前述の通り、APMは計算問題の比重が想像よりも遥かに少ないです。裏を返せば、ややこしい計算式を漏れなく記憶する重要性が低いということです。以上より、APMの学習内容は、かなり理解がしやすいと言えそうです。

しかしながら、これも前述の通り、試験本番での安定的な得点が望みにくい科目でもあります。「論述問題がほとんど」かつ「採点基準が厳しめ」という理由からでしたね。

※ただし、EVA™(Economic Value Added)の概念や計算方法は、日本ではあまり馴染みが無いということもあり、なかなか理解や習得が難しいと思われます。少なくとも私自身はかなり手こずりました……。

 

ATX(Advanced Taxation)

学習内容の理解のしやすさ:★★☆
試験本番での得点安定度:★★★

まず、ATXで学習するのはイギリス(又はその他の国)の税法に関する内容です。税法の勉強は、結局のところ、「税金の制度や計算式をひたすら次々と覚えていく」ことに尽きます。抽象的で難解な概念は決して登場しないものの、「法令でそのように決められているから、それをそのまま覚えるしかない」という性質のものであり、習得にはある種の苦痛が伴いがちです。「背景を理解しながら覚える」ことが通用しにくいからです。以上のことから、ATXの「学習内容の理解のしやすさ」は中程度だと評価いたしました。

次に、ATXの問題形式ですが、計算問題のウェイトが比較的大きいと考えられます。税法の内容が身に付いているかどうかを測るには、結局、事例に当て嵌めて実際に計算をさせてみるのが一番分かりやすいからです。また、論述問題の方も、税金のシステムを淡々と文章で説明することが解答の中心になる筈です。以上のことから、出題範囲の内容をしっかりと習得さえしていれば、ATXはかなり安定的に合格点が取りやすそうだと推察できます。

 

AAA(Advanced Audit and Assurance)

学習内容の理解のしやすさ:★★★
試験本番での得点安定度:★☆☆

まず、AAAに限らず「監査論」という科目には、ややこしい計算式の類いは一切登場しません。また、「監査論」に出て来る理論やルール、制度や手法は、いずれも“常識的”なものばかりです。以上より、AAAの学習中に理解が困難な内容に遭遇することはほとんど無い筈です。

一方、試験本番の得点は非常に安定しにくいと予想できます。第一に、出題形式がほぼ100%論述問題だからです。また、問題の内容も、「どのような手法が有効か?」ですとか、「どのような点に注意すべきか?」ですとか、抽象的な問いで受験生の「意見」を書かせる問題が多いためです。加えて、採点基準も厳しい可能性が高いです。といいますのも、AAAの下級版であるAAを私自身が受験した際、「7割以上は取れたかな?」という手応えだったのですが、実際には58点だったということがあるためです(まさにAPMと同じような経験をしたわけですね……。)。

 

まとめ:オススメの科目はあるのか…?

以上、選択科目それぞれの特色を見てきましたが、どうも手放しにオススメできる科目は一つも無いように思います。

学習内容が易しめの科目は、試験本番での点数が不安定になりそうですし(APMとAAA)、

試験本番で安定した点数が期待できる科目は、学習に困難を伴いそうですし(AFM)。

この点、ATXは「試験本番での点数が安定しやすい」うえに「学習内容もあまり難しくない」ので、一見、オススメの科目のようにも思えます。ただ、「学習内容が致命的につまらなさそう」という重大な欠点があります 笑 イギリスに居住している等の特別な事情でも無い限り、自分とは一切無関係な外国の税金のシステムを習得するなんて、勉強のモチベーションをどう保てばよいのやら、です……。

 

結局のところ、どの科目も何かしらデメリットがありますので、どこかに妥協点を見付けて腹をくくって勉強するしか無さそうですね。

ただし、ATXについては、お住まいやお仕事等の状況からして学習内容が実生活に役立ちそうな場合には、かなりオススメできそうです。「試験本番での点数が安定しやすい」うえに「学習内容もあまり難しくない」からですね。

 

補足:各選択科目の合格率について

ACCAの協会のHPによれば、

AFMとATX:ほぼ毎回40%前後で推移

APMとAAA:ほぼ毎回30%前後で推移

と、科目次第で明らかに10%ほどの差が見られます。

この点からも、「AFMとATXは試験本番での点数が安定しやすい」ことが推察できます。

 

結局どの科目を選ぶべき?←パターンをいくつかご提案します!

 

それでは、以上で見てきた選択科目ごとの特色を踏まえたうえで、

この中からどの2科目を選ぶべきか? について考えていきましょう。

この点、前述の通り、どの科目にも一長一短あります。そのため、どの科目を選択すればよいのか、改めて本当に悩んでしまいます……。

そこで、ここでは、選択科目の組合せを数パターンほどご提案させて頂く形を採りたいと思います。

 

1.やっぱり興味の無い勉強はしたくない!⇒ AFM & APM

【筆者の場合 & 正直な話…】の章でお話しした組合せですね。

「特殊な事情」が無い限りAAAやATXの勉強はかなり退屈なものになりそうな一方、AFMとAPMはある程度普遍的な理論や概念を学習していくので興味が湧きやすく、それゆえ後者の2科目を選ぶ、という考え方でした。

 

ただし、【本当にAFM&APMの選択で大丈夫?】の章で申し上げた通り、AFMにもAPMにも、それぞれ独特の難しさ・厄介さがあります。この点は覚悟して試験勉強に臨みましょう!

 

なお、監査法人にお勤めだったり、イギリス等の外国にお住まいだったりと、「特殊な事情」がある受験生については、AAAやATXの学習内容はむしろ面白いと感じるかもしれません。その場合、AFMかAPMのどちらか(あるいは両方)をAAAあるいはATXに入れ替えるとよいと思います。

 

すなわち、AFM及びAPMの組合せに限らず、楽しく勉強できそうな科目を選択するというのが根本的な考え方になります。学習内容の難解さにせよ、試験問題のややこしさにせよ、どの科目も何かしら苦労するのであれば、どうせなら面白い方を選択しようぜ! ……ということですね 笑

 

2.勉強は必死にやります。だから確実に合格したい! ⇒ AFM & ATX

「試験本番での得点安定度」を重視した選択です。

AFMもATXも、しっかりと学習さえすれば、安定的に試験本番で合格点を狙えます。その証拠に、どちらの科目もAPMやAAAよりも10%ほど合格率が高いです(前述)。

 

ただし、勉強自体は大変であることは覚悟すべきです。

AFMは、非常に複雑な概念や計算も習得しなければなりませんし、

ATXは、大半の人にとって外国の税制なんて無味乾燥な暗記地獄でしょうし……。

 

3.勉強の負担を減らしたい。長期戦になってもいいから… ⇒ APM & AAA

「学習内容の理解のしやすさ」の点で有利な科目を選択することにより、

勉強に必要な時間的・精神的な負担をできる限り軽減する戦略です。

多忙のため勉強にあまり時間が取れなかったり、

勉強が大好き!or超得意!…という程ではない受験生にとっては、

一考の価値がある選択肢だと思います。

 

ただし、APMもAAAも、どちらも試験本番での点数が安定しにくいです。AFMやATXよりも10%ほど低い合格率にそれが表れています。そのため、なかなか合格できずに受験が長期戦になる可能性もあります。

 

選択科目の選び方のまとめ+α

以上、どの2科目を選択するべきか、その考え方を整理しますと、以下のようになります。

① 勉強が比較的面白そうな科目を選ぶ。
② 安定的に合格点を狙いやすい科目を選ぶ。
③ 勉強の負担が軽めの科目を選ぶ。

この他、【各科目の特色】の章で言及したように、「特殊な事情」があって外国(当然、試験で選択可能な国に限ります。)の税制の勉強が苦にならない環境なのであれば、ATXは積極的に選択していきたい科目といえそうです。繰り返しになりますが、ATXは「試験本番での点数が安定しやすい」うえに「学習内容もあまり難しくない」からです。

 

 

今回はここまでです。

ご閲読ありがとうございました!

 

 


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