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【得点に直結!?】固定資産を公正価値で評価する3つのパターン【IFRS】

どうも、クマガワ@Kumagawa_Pro)です!
さて、突然ですが、“IFRS”といったら、皆様は何を思い浮かべますでしょうか?

はい、そうですね。何と言っても公正価値(Fair Value)ですよね!

 

……と、多少強引な導入をしてしまいましたが 汗、

IFRSを学習していますと、日本の常識では原価で貸借対照表に計上するのが当たり前な資産であっても、公正価値(≒時価)で評価できたり(選択可能)、あるいはしなければならなかったり(強制)、そんなことに遭遇する場面がかなり多いのではないでしょうか?

 

その中でも最たるものは、不動産を始めとする有形固定資産だと思います。

日本の会計基準ですと、「とりあえず原価(と減価償却累計額)で計上しておいて、収益性が著しく低下してしまった場合には減損損失を認識する」という処理をしておけば事足りる有形固定資産ですが、

IFRSの場合は、有形固定資産を公正価値(≒時価)で貸借対照表(※厳密には「財政状態計算書」)に計上するということが、ごく当たり前に行われます(少なくとも、試験問題を解くうえでは)。

 

 

……と、話がここで終われば、何も難しいことはないのですが、残念ながら(?)そうはいきません。

一口に「有形固定資産を公正価値で評価する」といっても、評価差額は損益として扱うのか? 減価償却(depreciation)にはどのような影響を与えるのか? 公正価値評価が強制されるケースはあるのか? 等々、考慮しなければならない要素がたくさんあります。

そして、【有形固定資産に公正価値評価を適用する】ことを内容に含む会計基準は、

IAS16『有形固定資産』
IAS40『投資不動産』
IFRS5『売却目的で保有する非流動資産および非継続事業』

と、複数存在します。当然、評価差額の扱いや減価償却への影響なども、どの会計基準を適用しているのかによって異なってきます。このあたりをきちんと区別して理解しておきませんと、たとえば、「投資不動産や売却目的の資産なのに減価償却をしてしまった……」といったミスを犯しかねません(※詳しくは後述しますが、有形固定資産が投資不動産や売却目的に分類されて公正価値評価の対象となった場合、減価償却は中止しなければなりません)

 

そこで今回は、『有形固定資産に公正価値を使う系』の会計基準を順番に詳しく見ていき、最後に整理とまとめをしていきたいと思います。

 

IAS16:有形固定資産

IAS16『有形固定資産』(Property, Plant and Equipment)は、有形固定資産全般に適用される基準です。ただし、後述のIAS40『投資不動産』やIFRS5『売却目的で保有する非流動資産および非継続事業』が適用される場合には、そちらが優先されます。

 

IAS16『有形固定資産』においては、有形固定資産の種類ごとに、取得原価モデルまたは再評価モデルのいずれかを会計方針として選択します。ただし、再評価モデルの採用は、公正価値が信頼性をもって測定できる場合に限られます。

取得原価モデル(cost model)を採用した場合は、日本基準と同じような方法で有形固定資産のBS計上額が測定されます。すなわち、取得原価から減価償却累計額および減損損失累計額を控除した金額で計上されます。

一方、今回のテーマ(=有形固定資産に公正価値を使う云々)との関係で重要となるのは、再評価モデル(revaluation model)の方です。再評価モデルを採用した場合には、再評価実施日における公正価値から、その後の減価償却累計額および減損損失累計額を控除した再評価額で計上されることになります。

前述の通り、IAS16『有形固定資産』は、有形固定資産全般に適用される基準です。ということは、信頼性をもって公正価値を測定することさえできれば、再評価モデルを選択することにより、あらゆる有形固定資産に対して公正価値評価を適用可能ということです。

なお、公正価値による再評価は、毎年必ず実施しなければならないものではありません。対象資産の公正価値の変動の大きさに応じて、帳簿価額が決算日の公正価値と大きく異ならないように、“適切な頻度”で行います。

 

また、再評価モデルを採用した場合、再評価時点の公正価値と帳簿価額との評価差額は、

プラスなら「その他の包括利益」として、マイナスなら「費用」として計上されます。

たとえば、取得原価1,000万円、減価償却累計額400万円の固定資産について考えてみましょう。このケースでは、資産の帳簿価額(carrying amount)は、1,000万円から400万円を控除した600万円となります。

そしてまず、この資産の公正価値が800万円であった場合、600万円を上回った分の200万円は、再評価剰余金(Revaluation surplus)という株主持分(Equity)の科目を用いて、その他の包括利益(OCI:Other Comprehensive Income)に計上されます。一方、この資産の公正価値が500万円であった場合は、600万円を下回った分の100万円は費用として計上されます。

 

ちなみにですが、過去にプラスの再評価剰余金を計上した資産について、その後の再評価により評価損が発生したというケースでは、残高が存在する限り再評価剰余金の減少としてその他の包括利益に計上されます。たとえば、過去に100万円の再評価剰余金を計上した資産について、新たに評価損150万円が発生した場合、150万円全額を費用として計上するのは誤りです。まず、再評価剰余金の減少を100万円計上し、そのうえで、残った50万円が費用として計上されます。

同様に、過去に30万円の評価損(費用)を計上している資産について、新たに120万円の評価益を認識した場合には、30万円の収益と90万円の再評価剰余金が計上されることになります。

 

なお、再評価モデルを採用して再評価を実施したとしても、引き続き減価償却は行っていきます。再評価額(と残存している耐用年数。定額法の場合)をベースに、次回以降の減価償却費を計算します。

また、再評価モデルと減価償却との関係という点では、プラスの再評価差額金を計上した場合の処理に注意が必要です。減価償却の進行に応じて、再評価差額金から繰越利益剰余金(Retained earnings)に振り替えることが可能です(あくまでも「可能」であって、「強制」ではありません。試験上は問題文の指示に従いましょう)。たとえば、500万円の再評価差額金を計上し、残りの耐用年数が10年の場合(ただし、減価償却は定額法を採用)、毎年50万円ずつ繰越利益剰余金へと振り替えられていきます。
 


 

IAS40:投資不動産

まず、投資不動産(Investment Property)とは、所有者(または、ファイナンス・リースの借手)が保有する不動産(土地、建物)で、賃貸収益(インカム・ゲイン)もしくは資本増価(キャピタル・ゲイン)またはその両方の獲得を目的して保有される不動産をいいます。

要するに、家賃収入や将来の値上がり益を目当てに保有している不動産のことですね。

 

そして、この投資不動産の評価方法ですが、取得原価モデルと公正価値モデルの2つから選択します。

取得原価モデルを選択した場合は、通常の有形固定資産に取得原価モデルを適用したのと同じ処理を行います。

一方、公正価値モデル(fair value model)を採用した場合、決算日時点の公正価値をもって、対象の資産を貸借対照表(厳密には「財政状態計算書」)に計上します。なお、投資不動産では「公正価値モデル」といいますが、通常の有形固定資産は「再評価モデル」と、名称が異なることを改めて確認してください。この違いはおそらく、投資不動産の「公正価値モデル」においては、公正価値による評価を毎年行わなければならないのに対し、「再評価モデル」では毎年実施するとは限らないことが影響しているのだと思われます。

 

なお、取得原価モデルを採用したとしても、投資不動産の公正価値を財務諸表の注記で開示することが求められます。すなわち、評価モデルの選択によらず、企業は投資不動産の公正価値情報を測定および開示する必要があるのです。

また、評価モデルの選択ですが、すべての投資不動産に対して一括で行う必要があります。通常の有形固定資産のように、「土地は公正価値で評価するけど、建物は原価で評価する」みたいなことはできません。

 

それではさらに、投資不動産に対して公正価値モデルを適用した場合の会計処理を、もう少し詳しく見ていきます。

まず、評価差額の取り扱いですが、マイナスはもちろん、プラスの方も損益として計上します。すなわち、評価損となろうが、評価益となろうが、区別せずにどちらも損益項目として扱い、その他の包括利益は出て来ないということです。

また、公正価値モデルを採用した場合、それ以降は減価償却を行わないことにも注意が必要です。

 

IFRS5:売却目的で保有する非流動資産および非継続事業

まず、「売却目的で保有する非流動資産」(Non-current Assets Held for Sale)とは、継続的使用ではなく主として販売取引によってその帳簿価額が回収される固定資産のことです。このとき、当該資産は直ちに売却が可能であり、その売却の可能性が非常に高くなければなりません。

売却の可能性が非常に高いと判断されるためには、①適切な地位の経営者が売却計画の実行を確約していること、また②買い手を探し売却を完了させる活発な計画が開始されていることが必要です。そして、③当該資産が積極的に売り込まれており、その販売価格が現在の公正価値と比較して合理的なものでなくてはなりません。さらに、④分類日以降1年以内に売却が完了する予定であり、⑤計画に重要な変更が行われたり、計画が撤回する可能性が低いことが示唆されていなければなりません。

……と、長々と教科書的な説明をしてきましたが、要するに、今すぐにでも売却する気が満々の固定資産ただし、たたき売りではなく適正な価格で)ということですね。

 

ある固定資産が売却目的に分類された場合、次のような会計処理を行うことが強制されます。通常の有形固定資産や投資不動産のように、モデルの選択制ではありません。

まず、貸借対照表(財政状態計算書)に計上する評価額についてです。『公正価値から、その固定資産を売却するために必要だと見込まれる売却費用を控除した金額』と『帳簿価額』と比較して、低い方の金額で測定します。公正価値から売却費用を控除するのを忘れないようにしましょう。

また、BS(SOFP)に計上されるのは、あくまでも「低い方の金額」です。『公正価値-売却費用』が帳簿価額を上回っていても、評価額は帳簿価額のままです。プラスの評価差額が認識されることはありません。棚卸資産(Inventories)における低価法に似ていますね。なお、『公正価値-売却費用』が帳簿価額を下回り、マイナスの評価差額が出ている場合には、費用(減損損失)を計上して当該資産の評価額を『公正価値-売却費用』まで切り下げます。

さらに、売却目的の固定資産は減価償却を行ってはなりません。この点も、売却目的の固定資産が棚卸資産っぽく扱われる雰囲気を感じます。

 

整理とまとめ

それでは最後に、今回のお話を整理してまとめていきたいと思います。

【通常の有形固定資産(IAS16)】
・すべての有形固定資産が対象。ただし、他の会計基準が適用される場合にはそちらが優先。
・取得原価モデルと再評価モデルの選択制。モデルの選択は資産の種類ごとに分けられる。
・再評価は毎年必ず行うとは限らない。
・評価益はその他の包括利益、評価損は費用として計上。
・減価償却は継続。なお、減価償却の進行に応じて、再評価剰余金を繰越利益剰余金に振り替えることができる。

【投資不動産(IAS40)】
・自己使用ではなく賃貸収入や売却益を目的に保有している不動産が対象。
・取得原価モデルと公正価値モデルの選択制。ただし、ある不動産を投資不動産に分類するかどうか自体については、IAS40の要件を満たせば強制的に投資不動産として扱わなければならない。なお、モデルの選択はすべての投資不動産に対して一括で行う。
・公正価値モデルを選択した場合、公正価値での評価は毎年必ず行う。
・評価益も評価損も、収益または費用として計上。
・減価償却は中止
・その他、取得原価モデルでも公正価値を測って注記で開示しなければならないことは、要注意です。

【売却目的で保有する非流動資産(IFRS5)】
・すぐにでも(適正な価格で)売却しようと考えている固定資産が対象。
・要件を満たせば、売却目的資産としての扱いが強制される。
・『公正価値-売却費用』と『帳簿価額』のうち低い方で評価する。なお、この比較は決算期末ごとに行うものの、“1年以内に売却が完了する予定である”という性質上、「毎年行う」という言い方はあまり適切ではないかもしれません。
・評価損は費用(減損損失)として計上。評価益はそもそも発生することがない。
・減価償却は中止

 

今回は以上でございます。

ご閲読ありがとうございました!

 

(今回の主な参考文献)

『テキスト国際会計基準 新訂版』

 

 


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