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IFRS9の金融資産の分類を「IFRSのプロ」が解説します!【英国勅許公認会計士(ACCA)】

どうも、クマガワ@Kumagawa_Pro)です!

突然ですが今回は、
IFRS9の金融資産の分類を英国勅許公認会計士(ACCA)が解説してみた。
という題目でお話ししていきたいと思います。
FVTPLFVTOCI、そして償却原価がうんぬんといった辺りのお話ですね!

……読者の皆様の中には、もしかしたらこのように思った方もいらっしゃるかもしれません。

「IFRS9? そんなのIFRS関連のテーマとしては有名過ぎて、既にネットのそこら中に解説が転がってるじゃん!」と。

はい、確かにIFRS9はIFRSの中でも注目度が高く、大手監査法人のHPを始めとした様々なサイトで解説記事が書かれています。
ただ、誠に恐縮ながら、私が拝見する限り、
金融資産の分類について的確かつ分かりやすく説明した日本語のページが見当たらない!のです(※少なくとも2022年12月現在においては。)
不思議なことに、どのサイトにも同じような問題点が見受けられます。

そこで今回は、その「同じような問題点」を指摘しつつ、IFRS9における金融資産の分類について“本来あるべき解説”をさせて頂きたいと思います。

 

本題に入る前に基本的な内容をおさらい!

さて、「世の中の解説記事はどこが不十分なのか?」を見ていく前提として、IFRS9における金融資産の分類について、基本的な内容を改めて確認していきます。
なお、IFRS9に関して既に十分な知識をお持ちの方にとっては、もうご存知の内容ばかりかと思います。ただそれでも、『分類の方法≒各カテゴリーの定義』の箇所だけは、是非ともじっくりとご一読されることをオススメいたします!

 

金融資産の種類

日本の金融商品会計基準においては、企業が保有する金融資産は「売買目的有価証券」「満期保有目的の債券」「子会社株式及び関連会社株式」及び「その他有価証券」の4種類に分類されます。このことはご存知の方も多いと思います。
一方、IFRS9では、以下の3種類のうちいずれかで測定される金融資産に分類されます。

① 償却原価(Amortised cost)
② FVTOCI:その他の包括利益を通じた公正価値
③ FVTPL:純損益を通じた公正価値

なお、FVTOCIは「Fair value through other comprehensive income」、FVTPLは「Fair value through profit or loss」の略称です。

 

それぞれの会計処理(期末測定)の方法

上記①~③の分類は、各期末においてその金融資産の金額をどのように測定するのか、そして、その測定に伴いどのような会計処理が発生するのかに違いをもたらします。

まず、②のFVTOCI及び③のFVTPLの金融資産は、いずれも期末における公正価値(Fair value)をもって財政状態計算書(※日本で言う「貸借対照表」です。)に計上します。なお、公正価値とはひとまず「時価」のことだとお考え下さい。
そして、期末の公正価値とそれまでの帳簿価額の差、すなわち評価差額については、FVTOCIであれば「その他の包括利益(Other comprehensive income)」に、FVTPLであれば収益又は費用に計上されます。ここでは、「その他の包括利益」が「収益又は費用」とは別の物だと理解できていることが重要です。その他の包括利益は、損益計算を通さずに純資産を直接変動させる項目であり、「損益計算書」には計上されません。「包括利益計算書」まで作ったときにようやく登場します。

他方、①の償却原価の金融資産については、公正価値は関係ありません。
帳簿価額と額面金額の差について実効金利法を適用し、毎年少しずつ両者を近付けていきます。そして、満期の日に「帳簿価額=額面金額」となります。
たとえば、満期になれば1,000,000円もらえる債券を950,000円で取得したとします。満期は5年後とします。この場合、1,000,000円と950,000円の差額50,000円について、満期までの5年間、毎期末に少しずつ“埋め合わせ”をしていきます。すなわち、帳簿価額が950,000円から少しずつ増えていき、最終的には1,000,000円になります。
なお、「5年で50,000円だから、毎年10,000円ずつ増やしていけばいいんだな!」と思われるかもしれませんが、そういうわけにはいきません。前述の通りIFRS9では「実効金利法」が適用されるため、もっと複雑な計算を行います。今回は詳細なご説明は省きますが、ざっくり申し上げますと、「最初の方は増えていくペースが遅く、後になるほど増加する金額が大きくなる。」イメージです。“利息が利息を呼ぶ”と言われる「複利」の考え方がベースになっています。
いずれにしましても、償却原価の金融資産の期末測定は、公正価値とは関係無しに、帳簿価額と額面金額との差を毎年少しずつ埋めていくというのがポイントです。そして、その“埋め合わせ”により生じた金額は収益(又は費用)に計上されます。すなわち、「損益計算書」にも計上されます。

なお、以上の議論は、単純化のために、為替や減損のことは一切考慮していません。
また、債券については、金銭で受け取れる分の利息(クーポン利息)のことも無視しています。
さらに、FVTOCIには債券が分類されることもあり(※後述しますが、むしろ債券や債権の方が原則的な形態です。)、その場合、「実効金利法の適用→公正価値で測定」という順番で処理を行い、前者で発生した利息分は収益又は費用に計上されます。すなわち、「公正価値で測定して、差額は『その他の包括利益』」という単純な処理では済まなくなるのです。
以上の点をお含みおき頂けましたら幸いです。

 

分類の方法≒各カテゴリーの定義

それでは、ある金融資産が償却資産、FVTOCI又はFVTPLの3種類のうちいずれに分類されるのか、その判定方法を見ていきます。
ここで重要なのが、これら3つのカテゴリーの定義・要件から考えていくことです。

まず最初に、償却原価(Amortised cost)で測定される金融資産についてです。
ある金融資産が以下の両方の条件を満たしている場合は、その金融資産は償却原価測定に分類しなければなりません(任意ではなく強制ということです!)

① 契約書に、特定の日に元本及び元本に対する利息の支払いのみを当該企業が受け取ることが明記されている。
② 当該企業の契約上のキャッシュ・フローを回収するために資産を保有しており、当該資産はその範疇である

①は要するに、当該資産が債券(国債や社債etc)や債権(売上債権や貸付金etc)っぽい金融商品なのか? ということを言っています。
②の方は、その債券や債権を満期まで保有する意思があり、かつ、途中で売却することは視野に入れていないかどうか? という要件だと言い換えられます(この点は、次のFVTOCIの要件と比較すると非常に分かりやすいです!)。

次はFVTOCIで測定される金融資産です。
ある金融資産が以下の両方の条件を満たしている場合は、その金融資産はFVTOCI測定に分類しなければなりません(こちらも任意ではなく強制です!)

① 契約書に、特定の日に元本及び元本に対する利息の支払いのみを当該企業が受け取ることが明記されている。
② 当該企業の契約上のキャッシュ・フローを回収するため及び売却するために資産を保有しており、当該資産はその範疇である。

ご覧の通り、ほとんど償却原価測定の要件と同じです。
異なるのは、当該金融資産を満期前に途中で売却することも視野に入れているというところだけです。

最後にFVTPL測定の金融資産です。
ハッキリ言って、めちゃくちゃシンプルですよ?

償却原価測定でもFVTOCI測定でもない金融資産

要件はたったこれだけです!
どんな種類の金融商品なのか? ですとか、
どのような目的でその金融商品を保有しているのか? ですとか、
そんなことは一切気にしません。

 

以上のことからしますと、IFRSにおける金融資産の分類は、おそらく皆様の想像よりも遥かにシンプルなフローチャートにまとめることが可能です。具体的には以下のようになります。

なお、このフローチャートですが、「償却原価測定か?」と「FVTOCI測定か?」のBOXがほぼ隣接しているのに対し、「FVTPL」のBOXはこれら2つとは離れた位置にあります。これにはちゃんとした意味がございます。
償却原価の判定とFVTOCIの判定ですが、厳密には、償却原価が先でFVTOCIが後という関係ではありません。それぞれ独立して個別に行うべき判断です。
ただ、フローチャートとして成立させるために、形式的に「償却原価→FVTOCI」の順番にいたしました。すなわち、あくまでも便宜上の順序なのです。
より正確なイメージとしては、償却原価とFVTOCIの判定は同時に行うと考えた方がよいかもしれません。といいますのも、先ほど見たように、両者は要件がほとんど全く同じだからです。違うのは「保有目的に売却が入っているかどうか?」だけです。
ですので、より厳密なフローチャートを書くのであれば、以下のようになります。

償却原価とFVTOCIに共通する要件が満たされているかをチェック。
① 契約書に、特定の日に元本及び元本に対する利息の支払いのみを当該企業が受け取ることが明記されている。
② 当該企業の契約上のキャッシュ・フローについて、少なくともそれを回収するために資産を保有しており、当該資産はその範疇である。

     ↓

「共通する要件」が満たされていれば、保有目的を確認。
・満期保有のみ → 償却原価
・満期保有の他、売却も視野に入れている → FVTOCI

     ↓

「共通する要件」を満たしていなければ、FVTPL

 

ところで、償却原価とFVTOCIに「共通する要件」の一つに、

① 契約書に、特定の日に元本及び元本に対する利息の支払いのみを当該企業が受け取ることが明記されている。

というのがございました。これはすなわち、債券や債権であることが、償却原価又はFVTOCIに分類されるための条件の一つになっているのです(※ただし、後ほど少し言及いたしますが、債券や債券でも償却原価又はFVTOCIに分類されず、FVTPLに仕分けされるものも存在します。)
逆に言えば、株式は全てFVTPLに分類されます。
そうなのです。株式はFVTPLになります!
保有目的とか関係なく、とにかく株式はFVTPLなのです!!
……「大事なことなので3回言いました。」というやつですね 笑

 

世間のIFRS9の解説に見られる問題点

冒頭で私は「IFRS9における金融資産の分類について、既に世の中には様々な解説ページが存在するが、どれも同じような問題点が見受けられる。」みたいなことを申し上げました。
ここからは、その「問題点」について詳しくお話ししていきます!

問題点①:“オプション”の部分までフローチャートに含めてしまっている!

いきなりですが、これが諸悪の根源的な問題点だと思っています。

先ほど私は「株式はFVTPLである!」と繰り返し申し上げました。
ただ、読者の中には、このようなことを思った方も少なくないのではないでしょうか?

「あれ? FVTOCIに分類される株式も無かったっけ? 確か売買目的がどうとかって……?」

こう思った皆様は、すっかり世間の“良くない解説”に毒されちゃってます 笑
「株式がFVTOCIに分類されることもある」というのは、間違ってはいないのですが、正確とも言えません。

何度も申し上げた通り、株式はFVTPLなのです。
ただし、一定の要件を満たした場合にのみ、FVTPLの代わりにFVTOCIに指定することができます。
すなわち、株式はFVTPLに分類されるのが“原則”であり、FVTOCIに分類されるのは“例外”的な処理なのです。
また、あくまでも「指定することができる」です。任意であって強制ではありません。FVTOCIに指定することが可能な場合であっても、原則通りFVTPLのままにしておいて構わないのです。

このように、IFRS9においては、原則的な方法(=上記のシンプルなフローチャート)に従って金融資産の分類を行った後で、さらに一定の要件を満たしている場合には、特定の別のカテゴリーに変更することが認められています。
そして、そのような「原則的な分類結果とは別のカテゴリーを指定できる」という例外的な処理は“オプション”と呼ばれています。

……それでですね、世間のIFRS9の解説における一番の問題点は、この“オプション”の部分まで最初からフローチャートに入れて考えてしまっていることなんです!
そのせいで以下のような弊害が生じていまっています。

① フローチャートが不必要に複雑で難解なものになってしまっている。
② “オプション”の部分も含めて金融資産の分類は「自動的に」決まるものであり選択の余地は皆無という誤った印象を与えかねない。

①については、上記で私がお示ししたフローチャートと比較すれば一目瞭然だと思います。IFRS9に書かれている内容に素直に従えば、原則的なフローチャートは非常に単純明快なものになります。

②については、たとえば、「資本性金融商品のうち、売却目的保有ではなく、かつ企業結合の条件付対価に該当しない場合は、必ずFVTOCIに分類されるんだ!」というような誤解です。正しくは「分類することができる」です。
会計学を少しでもしっかりと学んだことがある人であれば、これがどれだけ致命的な誤りであるかはお分かりになるかと思います。強制と任意の区別、あるいは原則と例外の区別がいかに重要かは、わざわざ私が改めて申し上げるまでも無いでしょう。

補足:IFRS9の金融資産の分類における“オプション”の詳細!

ご参考までに、IFRS9の金融資産の分類における“オプション”には、以下の2種類が存在します。

① FVTPL⇒FVTOCIの変更
【要件】
・資本性金融商品(≒株式)であること;かつ
・売買目的保有(held for sale)でないこと;かつ
・企業結合の条件付対価(contingent consideration)に該当しない場合
【注意点】
・一度FVTOCIに指定した後は、FVTPLに変更することはできない。
・FVTOCIに指定した金融資産を売却した場合でも、それまでに累積した『その他の包括利益』を収益又は費用に振り替えたりしない(いわゆる「リサイクリング」が発生しないということです。)

② 償却原価or FVTOCI⇒FVTPLの変更(公正価値オプション)
【要件】
・会計上のミスマッチ(accounting mismatch)を解消するためであれば、変更可能。
※会計上のミスマッチとは、同じ種類の資産や負債を、異なった方法で認識や測定している会計上の不整合のことをいいます。たとえば、FVTPLで測定される金融商品Aのヘッジのために金融商品Bを購入したものの、原則的な方法では金融商品Bが償却原価測定に分類されてしまう、といったケースです。

 

問題点②:「資本性金融商品」(or「持分金融商品」)という言葉をやたらと使っている。

これは問題点①に引きずられているのだと思います。

前述の『分類の方法≒各カテゴリーの定義』の項をよくお読みになって頂くとお分かりになる筈ですが、償却原価、FVTOCIあるいはFVTPLの分類において、「資本性金融商品」なんて言葉は一切登場しません。
対象の金融商品が資本性金融商品(≒株式)かどうかを気にすべきなのは、「FVTPL⇒FVTOCI」の“オプション”を考える時だけです。

それなのに、世の中のIFRS9の解説は、必ずと言っていいほど「資本性金融商品かどうか?」みたいな質問をフローチャート等の中に含めています。酷い時には、最初にこの質問から始まるフローチャートすら見かけます。
これは、まさに問題点①でご指摘したように、“オプション”の部分までいきなりフローチャートに入れてしまっているせいです。“オプション”の部分はいったん横に置いて、“原則的”な分類方法に立ち返れば、「資本性金融商品かどうか?」という判断のプロセスは全く必要ございません。

もし、「〇〇性金融商品かどうか?」という問いをどうしてもフローチャートの中に入れたいのであれば、使うべき言葉は「資本性金融商品」ではありません。むしろ「負債性金融商品かどうか?」の方が重要です。
前述の通り、償却原価測定又はFVTOCI測定の要件を満たしている場合、該当の項目に分類し「なければならない」のでした。任意ではなく強制なのです。一方、FVTPL測定は、償却原価でもFVTOCIでもない、「それ以外」という存在です。
そして、償却原価 or FVTOCIに分類されるための要件の一つに、「契約書に、特定の日に元本及び元本に対する利息の支払いのみを当該企業が受け取ることが明記されている。」というものがございました。ざっくり言い換えますと、「その金融資産が(比較的単純な)債券や債権≒負債性金融商品である。」ということです。
以上より、IFRS9の原則に従ったうえで対象の金融商品の性質を気にするのであれば、資本性金融商品かどうかではなく「負債性金融商品かどうか?」の方を注目することになる筈です。

ただ、そもそもですが、IFRS9に基づいて金融資産を分類する際に「〇〇性金融商品」ということに捉われ過ぎると実は危険だったりします。
たとえば、「負債性金融商品(債券や債権)なら、償却原価測定かFVTOCI測定」と覚えてしまうと、判定を誤るリスクがございます。債券や債権でもFVTPL測定とすべきものが存在するためです。

具体例を挙げますと、「利息1%でアメリカの企業に1億円を貸し付けたが、1ドル150円以上の円安になった場合には、さらに追加で1%の利息を受け取れる。」みたいな感じの金融商品です。
少々専門的な話になりますが、「契約書に、特定の日に元本及び元本に対する利息の支払いのみを当該企業が受け取ることが明記されている。」という償却原価・FVTOCI共通の要件を満たすためには、時間価値(time value of money)及び信用リスク(credit risk)が元本及び利息の最も重要な要素でなければならないとされています。この点、具体例の貸付金は、時間価値や信用リスクのほか、為替リスクも重要な要素といえます。よって、「時間価値と信用リスクが最も重要な要素である」とは言い難く、「契約書に~」という要件に当て嵌まりません。そのため、具体例の貸付金は償却原価測定にもFVTOCI測定にも分類されないことになります。すなわち、FVTPLに分類されるのです。
※先ほど負債性金融商品がうんぬんのお話をしていた際に敢えて「(比較的単純な)」と付けたのは、このように「形式上は債券や債権でも、償却原価・FVTOCIに分類されるとは限らない」ことを意識したためです!

 

問題点③:FVTPLとFVTOCIが“似た者同士”という印象を与えかねない内容になっている。

さて、突然ですが、少し漠然とした質問をいたします。
償却原価、FVTOCI、FVTPL。この中で“似た者同士”はどれでしょうか?

今までの内容をしっかりとお読み下さっている方でしたら、
償却原価とFVTOCIでしょ?」とお答えになられる筈です。この2つは定義・要件がほとんど共通しているから、ですね。

ただ、IFRS9についてちゃんと理解していないと、
FVTOCIとFVTPLが“似た者同士”と思う人が多い筈です。だって名前がすごく似ていますから

ただ、実際のところは、ある金融資産がFVTOCIに分類されるためにはそれが債券や債権であることが必要条件(「十分条件」ではありません。)である一方、株式であればその時点でFVTPLに分類されます。ということは、「FVTOCIとFVTPLが“似た者同士”」と考えるのは、「債券と株式は似たような金融商品だ!」と言っているようなものです。これが明らかにおかしいというのは、教養のあるビジネスパーソンでしたら誰でも分かることです。

しかしながら、前述の通り、世の中のIFRS9の解説は、金融資産の分類についてしっかりと正しいイメージが持てるような“本質的”な内容になっていないものばかりです。その「諸悪の根源」は、“オプション”に関する部分まで原則論とごちゃ混ぜにして説明していることでした。
そして、そうした世間の解説記事のせいで、「償却原価とFVTOCIはよく似ているが、FVTPLは全く別物といっていい。」という正しいイメージが全く世に広まっていないように感じます。その結果「この金融資産はFVTPLなのかな? それともFVTOCIだろうか?」と迷う人が続出するのです。

「FVTPL FVTOCI 違い」なんてワードを検索エンジンで調べるのって、本来はほとんどあり得ないことだと思います。名前が似ているだけで全くの別物なのですから。
「株式 債券 違い」なんて検索しませんよね?(金融について完全に初学者の方は除きますが。)あるいは極端な例え話ですが、「野球 サッカー 違い」と検索したことがある人はほとんどいない筈です。「FVTPL FVTOCI 違い」と検索するのは、それと同じくらい不自然な行為なのです。
※会計学について多少なりとも知見をお持ちの方を前提としたお話です。会計学をほとんどご存知でない方が、たとえばIFRS準拠の財務諸表を読む中で「FVTPL」や「FVTOCI」という単語を目にされた場合とかは、「FVTPL FVTOCI 違い」とご検索されても全く不自然なことではありません。ただ、その場合は、そもそもPL(純損益)とOCI(その他の包括利益)の違いを十分に把握されていない可能性がございます。ですので、IFRS9に関するものだけではなく、会計学の基礎的な内容を解説している記事も併せてお読みになると、より理解が深まると思われます。

 

補記:「株式はFVTPL」という認識が日本では特に広まりにくい背景

ここで改めて声を大にして申し上げます。
株式はFVTPLに分類されるのが原則です!

それにもかかわらず、どうも日本では「株式にはFVTOCIに分類されるものがある。」という認識が必要以上に強いように感じます。
確かに、前述の“オプション”の要件を満たせば、株式をFVTOCIに分類することも可能です。ただし、それはあくまでも原則に対する例外であり、また、強制ではなく任意的な選択肢に過ぎません。

この点、「株式にはFVTOCIに分類されるものがある。」というイメージが広がっているのは、これまで申し上げてきたように「既存のIFRS9に関する解説記事が不適切」という理由も大きいとは思います。ただ、それ以外にも、日本独特のとある商慣行が影響しているののと個人的に推察しています。

それは、いわゆる株式持ち合いですね。

「株式持ち合い」とは、Wikipedia大先生によりますと「上場企業(信託銀行を除く)の2社が相互に株式を保有している状態」との事です。

リンク先の記事には会計学の視点からの記述は見当たらないのですが、株式持ち合いを金融商品会計との関連で分析するならば、

連結どころか持分法の対象にもならない程度の少ない保有比率である。
売買目的の保有ではなく、長期に保有する意思がある。

という点が重要になると思います。

海外の人たちからすれば、
「買収をしたいわけでも、トレーディング目的でもないのに、他の会社の株式を買ってるって、どういうこと??」
というところでしょうか(“海外からすると”みたいな言葉はあまり気軽に使うべきではありませんが……。)。

とにもかくにも、日本の上場企業は、この「株式持ち合い」によって他社の株式を保有しているケースがかなり多いのです。(近年は徐々に「株式持ち合い」の慣行は解消されつつあるそうですが。)

そして、この「株式持ち合い」のための株式は、多くの場合、前述の“オプション”の要件を満たしていると考えられます。

【おさらい:FVTPL⇒FVTOCIに変更できるための要件】
資本性金融商品(≒株式)であること;かつ
売買目的保有(held for sale)でないこと;かつ
・企業結合の条件付対価(contingent consideration)に該当しない場合

すなわち、“オプション”の要件を満たす株式は本来“例外”的な存在である筈なのに、日本では「例外」とは呼び難いほどの数が該当している状態なのです。そのせいもあり、「株式はFVTPL!」という原則が全然広まらず、「株式にはFVTOCIに分類されるものがある。」という例外的な取扱いばかりが意識されるようになったといえるのではないでしょうか?

 

IFRS9における金融資産の分類について“正しい”フローチャートをご提示します!

さて、他のサイト様や日本の商慣行に対する批判じみた真似は、ここまでにしておきます 苦笑
ここからは、今回のお話の総括としまして、IFRS9における金融資産の分類について、皆様に是非とも覚えて頂きたい「IFRS9の内容に素直に従った正しいフローチャート」をお示ししたいと思います。

 

「フローチャート」といえば、既にこの記事の前半の方で原則的な部分についてのものを図示しております。そこに“オプション”の内容を足すことをすれば、実はもう完成です。
具体的には以下のようになります。

オプション部分を追加しても尚、かなりシンプルなフローチャートですよね!
なぜ他のサイトではゴチャゴチャと複雑な内容にしたがるのか、改めて不思議です 苦笑

なお、これもこの記事の前半で申し上げましたが、「償却原価測定か?」と「FVTOCI測定か?」の関係は、実のところ、“どちらかが先でもう一方が後”というものではありません。厳密にはそれぞれ独立して個別に行うべき判断であり、むしろ同時並行的に検討する方が適切です。
また、上記のフローチャートには「〇〇か?」という“問い”は示されているものの、具体的にどうやって判断するのか、その基準や要件が書かれていません。そのため、いざ実際にこのフローチャートを“使う”となりますと、この記事の別の箇所の内容や、その他ネットや書籍での知識を参照しながら進めることになってしまいます。これは若干面倒ですよね?

そこで、より厳密かつ実践的なフローチャートを、以下の通りにご提示させて頂きます。

<A>
償却原価測定とFVTOCI測定に共通する要件が満たされているかを検討。
① 契約書に、特定の日に元本及び元本に対する利息の支払いのみを当該企業が受け取ることが明記されている。
② 当該企業の契約上のキャッシュ・フローについて、少なくともそれを回収するために資産を保有しており、当該資産はその範疇である。(※)
【「共通する要件」をどちらも満たしている場合】
  <B>
【「共通する要件」のいずれか又は両方を満たしていない場合】
  ⇒その金融資産はFVTPL測定である! ただし、FVTOCIに変更できる場合もあるため<D>へ。

<B>
その金融資産を保有する目的に「売却する」ことが含まれているか否かを確認。
【含まれていない=満期保有目的】→ その金融資産は償却原価測定である。
【含まれている=売却も視野に入っている】→ その金融資産はFVTOCI測定である。
⇒どちらの場合も<C>

<C>
償却原価・FVTOCIからFVTPLへの指定(=変更)を行うかどうかを検討。
会計上のミスマッチを解消するためであれば、変更することが可能である。
ただし、変更は任意であり強制ではない。

<D>
FVTPLからFVTOCIへの指定(=変更)を行うかどうかを検討。
具体的には、以下の要件が満たされているか否かを確認。
・資本性金融商品(≒株式)であること;かつ
・売買目的保有(held for sale)でないこと;かつ
・企業結合の条件付対価(contingent consideration)に該当しない場合
⇒満たしている場合は、FVTOCIへの変更が可能。ただし、変更は任意であり強制ではない。
[注意点]
・一度FVTOCIに指定した後は、FVTPLに変更することはできない。
・FVTOCIに指定した金融資産を売却した場合でも、いわゆるリサイクリングは行わない。

文字にすると少し複雑そうに見えますが、実際にこのフローチャートを使って金融資産の分類をやってみて頂ければ、想像よりもはるかに簡単だとお分かりになる筈です!

(※)
「当該企業の契約上のキャッシュ・フローについて、少なくともそれを回収するために資産を保有しており、当該資産はその範疇である。」というのは、IFRSに書かれている厳密な定義ではありません。償却原価とFVTOCIの要件に共通する部分が上手く融合するように手を加えた、いわば一種の造語です。
ですので、試験の解答や、業務上の正式な文書とかでこれをそのまま書くことは、あまりお勧めできません。何卒ご注意ください。

 

今回はここまでです。
ご閲読、誠にありがとうございました!

参考文献

なお、今回の記事は、以下の参考文献を何度も参照しながら作成いたしました。

『ACCA Strategic Business Reporting: Workbook | BPP Learning Media』

『テキスト国際会計基準 新訂版 | 桜井 久勝』

『BATICⓇ Subject2公式テキスト〈2020年版〉| 東京商工会議所』

 

一番下の『BATICⓇ Subject2公式テキスト』は、IFRSに関する知識がコンパクトかつ網羅的に整理されていてかなり使いやすかったのですが、BATICの試験自体に制度変更がありSubject2が廃止されることになりました。そのせいで、2020年のバージョンを最後に絶版となっています。ご興味のある方は、購入はお早めに!


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