SBR(Strategic Business Reporting)

IFRSにおける「暗号通貨」や「ICO」の会計上の取扱い【“IFRS18”を大胆予測!?】

どうも、クマガワ@Kumagawa_Pro)です!

 

私が取得しているACCA(英国勅許公認会計士)という資格はイギリスの会計士資格です。イギリスといえば、かの有名なIFRS(International Financial Reporting Standard)の発祥地です。そのため、ACCAの試験も当然IFRSに準拠した内容でした。

ところで、一口にIFRSと言っても、そういう名前の単一の基準書が存在するわけではありません。「IAS〇」及び「IFRS〇」(〇の中には数字が入ります。なお、IASは「International Accounting Standards」の略です。)という個別の基準書が多数集まって“IFRS”を構成しています。

そして、2023年1月現在、IFRSは「IFRS17」(保険契約)まで公表されています。

 

ですので、次に新しいIFRSの基準書が作られる際は当然“IFRS18”になるわけですが、「“IFRS18”が取り扱うテーマはきっとこれだろうなぁ」と、クマガワが個人的に予想している分野がございます。

それはDigital assets(デジタル資産)です。具体的には暗号通貨(Cryptocurrencies)ICO(Initial Coin Offerings)等がdigital assetsに含まれます。

 

といいますのも、ACCAの試験勉強中、SBR(Strategic Business Report)という科目の勉強をしていた際、「暗号通貨やIPOといったDigital assetsの会計上の取扱い」の論点がやたらと印象に残ったんですよね。

SBRは財務会計分野の最上位の科目ですので、「今の会計基準の問題点」「今の会計基準ではカバーできない取引や経済事象」みたいな内容も学習範囲に含まれます。そのような項目の筆頭としてテキストに登場していたのが、まさにDigital assetsに関する論点でした。

「今のIFRSには暗号通貨やICOを直接上手く処理できる会計基準は存在しないけれども、実務上はこのように考えるべき」という感じの解説が、結構な量の紙面を割いて記述されておりました。テキストだけではなく問題集の方にも、「暗号通貨の会計上の取扱いについて説明せよ」みたいな問題が載っていました。

 

すなわち、ACCAの試験において、暗号通貨やICOといったデジタル資産は、会計基準は未整備だけど重要な論点として扱われていたのです。そして、前述の通り、ACCAはイギリスの権威ある会計資格であり、かつ、イギリスは“IFRSの本場”です。

そんなわけで私は「次のIFRS=“IFRS18”は、きっと暗号通貨やICOに関するものになるんじゃなかろうか?」と思うに至った次第です。

 

さて、前置きが少々長くなりましたが、改めまして今回は、暗号通貨ICOといったデジタル資産の会計上の取扱いについてお話ししていきます。

 

なお、今回の記事ですが、ACCAのSBRのテキストである『ACCA Strategic Business Reporting: Workbook(BPP Learning Media)』内の記述を(多少の補足や意訳をしつつ)引用している箇所が多いです。

言うなれば、今回の記事は大半がテキストの内容の解説みたいなものです。それゆえ、ACCAの学習をしている方には当然役に立つと思われます。

ただ、ACCAの受験生に限らず、“IFRS18”の内容を今のうちから先読みできる(かもしれない)という意味で、会計に携わる方なら割と誰にとっても有益な内容だと思います!

【注意事項!】
「“IFRS18”は暗号通貨やICOに関するものになる。」というのは、あくまでも筆者の個人的な予想に過ぎません。
また、これからお話しする内容は現行(2023年1月現在)のIFRSを前提としております。

 

Digital assets(デジタル資産)とは?

ここまでで既に「デジタル資産」という言葉を何度か使ってまいりましたが、ここで改めてその内容を探っていきたいと思います。

ACCAのテキストでは、digital assetsについて次のように説明されています。

Digital assets include digital photos, music, film and documents, as well as digital currency, also known as cryptocurrency, and other cryptoassets such as ‘tokens’, issued in Initial Coin Offerings.

ご覧の通り、「デジタル資産には〇〇、△△、◇◇、……が含まれる」といった感じの文章になっており、「デジタル資産とは何か?」が直接ハッキリとは書かれていません。どうやら、digital assetsには確固とした定義みたいなものが存在しないっぽいですね……。文字通り「デジタルな資産」程度の意味合いしか無さそうです。

ただ、digital assetsの中でも特に重要なのは次の2種類であることが伺えます。

暗号通貨(cryptocurrency)としても知られるデジタル通貨
ICO(Initial Coin Offering)で発行されるトークン(token)のような暗号資産

 

以下、これら2つが現行(※2023年1月時点)のIFRSにおいて会計上どのように取り扱われるのか、それぞれ詳細にご説明いたします。

 

暗号通貨(Cryptocurrency)の会計上の取扱い

そもそも暗号通貨(Cryptocurrency)とは何か?

Wikipedia大先生暗号通貨について次のように説明しています。

暗号通貨(あんごうつうか、英: cryptocurrency、crypto-currency、crypto)は、交換媒体として機能するよう設計されたデジタル資産の事であり、個々のコインの所有権の記録は電子化されたデータベースという形の台帳に保存され、強力な暗号によって、取引履歴の安全性が保障され、新たなコイン生成が管理され、所有権の移転が確認されるものである。
暗号通貨は物理的な形態(紙幣など)を持つものではなく、一般的に中央権者によって発行されるものではない。 典型的な暗号通貨は分散的(非中央集権的)に管理されており、中央銀行発行デジタル通貨とは対照的なものである。
暗号通貨が生成される時、または発行前の生成時、または特定利用者から発行される時、それは一般的に中央集権的とされる。非中央集権的な管理が実装された時、個々の暗号通貨は、分散化した台帳技術(通常はブロックチェーン)を通して、公的な金融取引データベースとして機能する。

「強力な暗号によって、取引履歴の安全性が保障され」

分散的(非中央集権的)に管理されており、」

↑この辺りがキーワードになりそうですね!

 

また、IFRS Interpretations Committeeが2019年6月に発行したアジェンダでは、暗号通貨(cryptocurrency)は次のように定義されました。

(a) ‘a digital or virtual currency recorded on a distributed ledger that uses cryptography for security’.

(b) not issued by a jurisdictional authority or other party.

(c) does not give rise to a contract between the holder and another party.’

和訳するとこんな感じ↓になるでしょうか。(※太字による強調や注釈の挿入は筆者の独断で行ったものです。)

(a) 分散された台帳に記録されているデジタルの又は仮想の通貨であり、安全性のために暗号法を使用している。
(b) 管轄権を有する政府当局や他者によって発行されるものではない。
  分散的(非中央集権的)に管理されている、ということですね。
(c) 所持者と他者との間に契約を生じさせるものではない。

 

……と、いろいろと小難しい用語や定義をご紹介してきましたが、

会計上の取扱いを考えるだけであれば、

“政府ではない民間組織が発行している電子的な通貨”くらいのイメージを持っておけば十分かと思います。

 

なお、「暗号通貨とは何か?」をもっとちゃんと詳しくお知りになりたい方は、こちらの本がオススメです。

暗号通貨を始めとしたいわゆるフィンテックについて、難しい専門用語をあまり使わずに、概略的でありながら本質的な解説をしています。文系でもそれなりに深い理解を得られるという意味でかなり良い本だと思います!

 

また、暗号通貨と似たような言葉で「仮想通貨」(Virtual currency)というのを聞いたことがある人も多いかと思います。というより、日本ではむしろ「仮想通貨」という言い方のほうが広く知られているかもしれません。

「暗号通貨」と「仮想通貨」の違いについてインターネットで調べてみたのですが、どうやら「どちらも同じもの」「言い方の違いだけ」っぽいです。

本記事では、特に断りの無い限り「暗号通貨」という語句で統一することにいたします。

 

暗号通貨は会計上どのように取り扱うべきか?

さて、ようやく本題の一つ目です。

現行のIFRSを前提とした場合、暗号通貨を取得した企業は、その暗号通貨をどのような資産として計上・処理すべきでしょうか?

 

まず、暗号通貨は現金(Cash)ではありません。法定通貨(legal tender)ではないため、「交換の媒体」(‘medium of exchange’)として広く受け入れられているわけではないからです。

また、現金同等物(cash equivalent)でもありません。「価値の変動について僅少なリスクしか負わない(subject to an insignificant risk of changes in value)」とは言えないからです。暗号通貨はむしろ値動きが非常に激しいことは、昨今の「仮想通貨」の事例を思い浮かべれば容易に想像できるかと思います。

さらに、金融資産(financial assets)の定義も満たしていません。

「え? 暗号通貨って普通に金融商品じゃないの? 『仮想通貨』といえば投資目的で買う人がほとんどだと思うけど……?」みたいに考える方も多いかもしれません。

しかし、IFRSにおいて金融資産として扱われるためには、以下の(a)から(d)のうちいずれか一つに該当していなければなりません。

(a) 現金(Cash)
(b) 他社が発行する資本性金融商品(equity instrument)
(c) 他者に対する契約上の権利(contractual right)で、以下のいずれかの内容のもの
  (i) 現金あるいは他の金融資産を受け取る権利
  (ii) 金融資産又は金融負債を潜在的に有利な条件で交換する権利
(d) 自身が発行する資本性金融商品をもって決済される予定の、あるいはその可能性がある契約

まず、(a)に関して、暗号通貨が現金ではないのは前述の通りです。

また、(b)で言う「資本性金融商品(equity instrument)」とは要するに「株式」のことだと考えて頂いて大丈夫です。そして、暗号通貨が株式ではないのも明白です。

さらに、(c)に関しては、暗号通貨そのものに「他人からお金をもらえる権利」が付与されているわけではありません。暗号通貨を現金(法定通貨)に換えることも可能ですが、それはただ単に売却をしているだけです。

最後に、(d)にも明らかに当て嵌まりません。

よって、暗号通貨は一見すごく“金融商品っぽい”のですが、会計上は金融資産とはいえないのです。

 

それでは結局、暗号通貨は会計上どのような資産として扱うべきなのでしょうか?

結論を言えば、IAS 38で規定されている無形資産(Intangible assets)です!!

なぜなら、暗号通貨は物理的な実体を持たない(do not have physical substance)ながらも識別可能(identifiable)(※)な存在ですし、それでいて貨幣性ではない(non-monetary)資産だからです。

(※)(a) 分離可能(separatable)であるか、又は(b) 契約上の又は法的な権利から生じている(arises from contractual or legal rights)場合に、その資産は「識別可能(identifiable)」であるとされます。

 

現行のIFRS上、暗号通貨は無形資産に該当するということで、暗号通貨の会計処理はIAS 38に従って行われることになります。具体的には以下のように会計上の処理を行います。

・取得時は原価(cost)で測定・計上する。
・期末の測定は次のいずれかの方法で行う。
〈原価モデル〉
 取得原価から減価償却及び減損の累計額を控除した金額
〈再評価モデル〉
 適宜公正価値(fair value)で再評価を行い、その評価額から当該再評価実施以後の減価償却及び減損の累計額を控除した金額

暗号通貨は全般的に値動きが激しいです。その点、「再評価モデル」を採用すれば、暗号通貨の時価変動による影響を保有者の財政状態に反映することが可能となります。すなわち、「時価と帳簿上の金額が大きく乖離している!」みたいな問題が起こりにくくなります。(なお、再評価によって生じる評価差額は、累計でプラスになっている場合には「その他の包括利益(Other comprehensive income)」として、マイナスになっている場合には純損益(つまり費用)として認識します。)

したがって、暗号通貨を無形資産として扱ってIAS 38を適用することは、少なくとも表面上は問題が無いといえそうです。

 

……ただ、暗号通貨を無形資産に分類するのって、やっぱりなんか違和感ございませんか?

会計学上の無形資産といえば、特許や商標といった法律上の権利や、ソフトウェアなんかが普通は思い浮かびます。これらの権利やソフトウェアって、それを使って事業活動を行うことがほぼ唯一の取得目的ですよね? すなわち、いわば“使い倒す”のが前提であって、「将来時価が上がるだろうから、その時が来たら売却してやろう」とは通常考えない筈です。

一方、暗号通貨はその正反対です。投資目的で購入する場合がほとんどではないでしょうか? というかそもそも、暗号通貨を「事業活動のために活用する」こと自体が不可能です。最終的に現金化するか、商品やサービスの代金として消費するか、暗号通貨の利用方法はこの2つしかありません。すなわち、結局のところ、暗号通貨には金融商品や現金に近い機能が期待されているわけです。

 

ということで、暗号通貨を無形資産として扱うことは、形式上は問題無さそうでも、実態を考えればやはりどこかおかしい気がします。

そこで、将来的には“IFRS18”が制定されて、「暗号通貨は無形資産!」という“その場しのぎ的”な状態が解消されるんじゃないかなぁと、個人的には思っております。

 

なお、暗号通貨を無形資産ではなくIAS 2の棚卸資産(Inventories)として扱うべき場合もあることを申し添えます。暗号通貨に限らないのですが、「自社の本業の商品」は当然棚卸資産になります。たとえば、土地や建物は大半の企業にとっては有形固定資産(Property, plant and equipment)に該当しますが、土地の仕入販売業者や建設会社にとっては棚卸資産になります(※自社で使用するものは除きます。)。

それと同様に、暗号通貨を発行・販売する業者にとっては、自社の暗号通貨は無形資産ではなく棚卸資産として取り扱う必要がございます。

 

ICO(Initial Coin Offering)の会計上の取扱い  

そもそもICO(Initial Coin Offering)とは何か?

暗号通貨の次は、ICO(Initial Coin Offering)がIFRS上どのように取り扱われるかについてお話ししていきます。

 

ただ、その前に、そもそもICOとは一体何物なのでしょうか?

先程までの「暗号通貨」については、言葉ぐらいなら聞いたことがある人も多いと思います。

しかし、「ICO」の方は、おそらくかなりの方が初耳なのではないでしょうか?

 

「ICOとは何か?」という点に関して、IFRS Interpretations Committeeは以下のような説明をしています。

【Initial Coin Offering(ICO)】

An ICO is a means by which an entity raises funds through the issue of cryptoassets (in the form of digital ‘token’ or ‘coins’) in exchange for either (a) fiat currency (money without intrinsic value but backed by a government authority, eg euros) or (b) an established cryptocurrency (eg bitcoin or ether)

これを和訳すると以下のような感じになるでしょうか。

ICOとは、暗号資産(デジタルの「トークン」あるいは「コイン」の形態のもの)の発行を通じて企業が資金調達をする手段のことであり、(a)不換通貨(本源的価値は無いものの、政府当局による裏付けがあるお金のこと。たとえばユーロである。)、又は(b)確立された暗号通貨(たとえばビットコインやイーサ)のいずれかと交換に行われる。

要するに、「株式の代わりに暗号資産を発行するIPO」みたいなものだと言えそうです。

IPO(Initial Public Offering)については、会計に携わるビジネスパーソンであれば皆様ご存知かと思います。未上場だった企業が自社の株式を新たに証券取引所で公開することによって多額の資金を調達する方法のことですね。

そして、ICOも企業の資金調達の方法なのですが、発行されるのが株式ではなく「トークン」や「コイン」といった暗号資産になります。

 

この「トークン」や「コイン」ですが、具体的には以下のような内容になるのが通常です。

【トークン(token)の場合】
トークンには「約束(promise)」が付けられている。
その「約束」の内容は、たとえば次の通りである。
・その企業の利益に対する持分
・その企業の商品やサービスを無料あるいは割引価格で提供すること
・会員同士でその企業の商品やサービスを売り買いできる交換所へのアクセス権

【コイン(coin)の場合】
その企業独自の新しい暗号通貨を発行することになる。
「コイン」の発行によるICOを選択した場合、発行企業側は「トークン」の場合のような何らかの義務(=上記の「約束」)を負わないことが通例である。
「コイン」は、発行企業の業績や成長等に連動して価格が増減していく(この点は株式と類似しているといえますね!)。よって、投資家側としては、「トークン」の場合のような特典(=「約束」)ではなく、値上がり益を期待して「コイン」を購入するのである。

また、「トークン」や「コイン」の発行と引き換えに企業が受け取るのは当然“お金”なわけですが、お金と言っても政府が発行する通貨に限られません。ビットコインやイーサといった、流通量の多い暗号通貨が企業側に供給されることもあります。

 

なお、インターネットでICOのことを検索すると、「暗号通貨を発行する」と説明しているサイトも多いです。

ですが、これは明らかに不正確です。ICOで発行されるのは、暗号通貨である「コイン」だけではなく「トークン」の場合もあるからです。「トークン」は暗号“資産”ではありますが、暗号“通貨”ではありません。

 

また、ICOにおいて「トークン」や「コイン」を購入する人達のことはinvestorではなくsupporterと呼ぶことが多いそうです。新しいコンセプトやシステムに資金を投入するという事実を反映して、そう呼ぶのだそうです。

 

ICOは会計上どのように取り扱うべきか?

それでは本題です。

現行のIFRSにおいて、ICO(Initial Coin Offering)が行われた場合はどのように会計処理をするべきでしょうか?

なお、前述の暗号通貨では取得する側の会計処理が問題となりましたが、ここでは主に発行者側の会計処理について述べていきます。「トークン」や「コイン」を取得する側の処理は、最後に軽く言及する程度にとどめます。

 

企業がICOを実施した場合の会計処理ですが、端的に言うとケースバイケースになります。

一口にICOといっても、「トークン」が発行される場合もありますし、「コイン」の場合もございます。また、「トークン」に付与される「約束」の内容も様々です。

そのため、ICOの具体的な中身を見て、それを元に適切な会計処理を考えていくしかないのです。

 

以下、「そのICOにはどんな『約束』が含まれるのか?」という点を主な着眼点として、ICOの実施者がICOで生じる経済事象を会計上どのように認識すべきかについてご説明していきます。

※なお、この論点で問題となるのは貸方(右側)の勘定科目です。借方(左側)についてはCashあるいは無形資産(資金を暗号通貨で受領する場合)の取得を認識・計上するだけです。

 

資本性金融商品(equity instrument)として計上すべきケース

「約束」の内容が「分配可能な剰余金(distributable reserves)から分配金を支払うこと」である場合には、ICOの実施者は資本性金融商品(equity instruments)を発行したものとして当該ICOを認識・計上するべきだとされています。要するに、株式の発行と同様に扱われるということです。

株式の配当金みたいに利益からの分配金を支払うわけですから、確かにこの取扱いは納得です。

 

金融負債(financial liability)として計上すべきケース

「約束」の内容が「特定の条件を満たした場合に現金あるいは他の金融資産を譲渡すること」である場合には、ICOの実施者は金融負債(financial lability)を負ったものとして取り扱うべきだとされています。

なお、前項の「資本性金融商品として計上すべきケース」との違いは、こちらの場合は条件を満たせば利益が発生していなくても支払い義務が生じるという点です。前項のケースでは、あくまでも“利益からの分け前”を支払うに過ぎません。

 

非金融性の負債(non-financial liability)として計上すべきケース

「約束」の内容が、現金やその他の金融資産を譲渡する以外の何かしらの義務である場合には、非金融性の負債(non-financial liability)を負ったものとして取り扱うべきだとされます。

たとえば、「会員同士でその企業の商品やサービスを売り買いできる交換所へのアクセス権」の付与がこのケースに該当します。

ただし、義務の内容が「自社の商品やサービスを無料あるいは割引価格で提供すること」である場合は、次項の「収益として認識すべきケース」の方に該当しますのでご注意ください。

なお、「非金融性の負債(non-financial liability)」といっても、そのような名称の勘定科目が存在するわけではありません。具体的な会計処理の場面では『IAS 37 Provisions, Contingent Liabilities and Contingent Assets』が適用されることになります。よって、当該負債は引当金(provisions)として計上されることになる筈です。

 

収益(revenue/income)として認識すべきケース

「約束」の内容が「将来のある時点において、自社の商品やサービスを無料あるいは割引価格で提供すること」である場合には、収益を獲得したものとして取り扱われるべきだとされます。

確かにこの場合のICOは、資金調達という名目ながらも、実質的には自社商品を条件付きで販売しているのと同じです。そのため、収益を認識すべきというのはとても素直な考え方といえます。

なお、この場合の「収益」は“本業”から生じるものですので、英語で言うと‘revenue’に当たり、IFRS 15(顧客との契約から生じる収益)が適用されます。

よって、厳密に言うと、資金を受け取った時に即座に収益が認識されるわけではありません。収益を認識するのは、対象となる商品やサービスを提供した時点になります。資金の受領から収益認識までの期間については、契約負債(contract liability)が計上されることになります。要するに“前受金”ですね!

 

また、「コイン」を発行するパターンのICOにおいては、発行者側には何ら「約束」が発生しないことが通常です。とすれば、この場合も収益を認識すべきです。「何の義務も負わずにタダでお金をもらった」わけですから。

なお、こちらの場合の「収益」は“本業”によるものではありませんので、‘income’に該当します。そして、資金と引き換えに何らかの義務を負うわけではないので、資金を受領した時点で即時に収益が認識されることになる筈です。

 

ところで、revenueにせよincomeにせよ「収益が認識される」ということは、各国の税法により法人所得課税の対象とされる可能性が高いと思われます。

すなわち、ICOを実施した企業としてはあくまでも資金調達のつもりだったのに、せっかく調達した資金の一部を税金で持っていかれてしまう、ということになります。これでは資金調達という目的が十分に達成できません。ICOの利用が阻害されることにも繋がります。

そのため、実際に“IFRS 18”が制定された際は、収益として認識しない会計処理が導入される可能性もゼロでは無さそうです(もちろん、課税を免れるためには、会計基準を整備するだけではなく、各国の税法がその会計処理を認容する内容になっている必要がございますが)。

 

取得者側の会計処理を考察

以上はICOの実施者=発行者側の会計処理のお話でした。

今度は投資者=取得者側の会計処理について見ていきたいと思います。

 

ただ実は、ACCAの教科書には取得者側の会計処理に関する説明が載っていませんでした…。

また、ネットを探しても、それらしい情報が見付かりませんでした……。

ですので、私クマガワのオリジナルの解説を書かせて頂くことにいたしました。そのため、内容の正確性には若干自信がございません……。悪しからずご容赦頂けましたら幸いです。

 

いずれにしましても、取得者側の会計処理については、発行者側がそのICOを会計上どのように取り扱うべきかと連動して決まると考えるのが素直でしょう。

具体的には以下の通りになると思われます。

発行者側が資本性金融商品又は金融負債として計上すべきケース
⇒取得者側は金融資産として計上。

発行者側が非金融性の負債として計上すべきケース
⇒取得者側は「契約上の権利」として一種の“会員権”みたいなものを取得しているので、無形資産として計上。

発行者側が収益を認識するケース①:「約束」付の「トークン」の場合
⇒まず、商品やサービスの提供を受ける前は前払金として計上。そして、提供を受けた時点で、その商品やサービスを受領した場合に通常行うのと同じ会計処理を行う(たとえば「消耗品(費)」に計上するetc)。

発行者側が収益を認識するケース②:「コイン」の場合
⇒取得者側は暗号通貨を受領したということなので、無形資産として計上。(暗号通貨が無形資産として取り扱われるべきなのは、この記事の前半でご説明した通りです。)

 

日本における暗号通貨とICOの会計上の取扱い

さて、ここまではIFRSをベースにしたお話でした。

ただ、当サイトはご覧の通り日本語で運用されておりますので、読者の皆様はIFRSよりも日本の会計基準に準拠してお仕事等をされている方が大半かと思います。

そこで、日本の現在(2023年1月)の会計基準上、暗号通貨及びICOがどのように取り扱われているかについても、深入りし過ぎない程度に言及していきたいと思います。

 

暗号通貨について

まず、暗号通貨については、

実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」

というものが、企業会計基準委員会(ASBJ)より公表されています(ASBJのページへのリンクはこちらから)。

そのため、日本基準においては、暗号通貨はこの「実務対応報告第38号」の内容に沿って会計処理を行うことになります。

具体的には「活発な市場があれば、期末は時価で評価する。活発な市場が無ければ、取得原価のまま」というのがポイントだと言えそうです。

※「実務対応報告第38号」に基づく暗号通貨の会計処理については、以下の公認会計士の方のサイトが参考になります!

暗号資産・仮想通貨に関する会計処理|矢野譲公認会計士・税理士事務所 (yano-cpa.com)

 

ところで、IFRSにおいては、この記事の前半で言及した通り、暗号通貨に関する個別の会計基準はまだ制定されておりません。ということは、「実務対応報告第38号」を既に作成済みの日本は、世界に先駆けて暗号通貨の会計処理に関する正式なルール化を行ったといえます。

「日本も捨てたものじゃないじゃん!」……と言いたいところですが、日本には“そうせざるを得なかった事情”があったと推察されます。

この記事の前半で申し上げた通り、IFRSにおいては、暗号通貨に関する個別の会計基準が存在せず、暗号通貨は無形資産として取り扱われるべきというお話でした。

ただ、日本には無形資産全般に関する会計基準が存在しません。無形“固定”資産に関する会計ルールは存在しますが、これは無形資産とは似て非なるものです。

そのため、日本においては、既存の会計基準の中で暗号通貨に適用できそうなものが一切存在しなかったのです。それゆえ、暗号通貨に関する新しい会計基準を急ピッチで制定する必要があったのでしょう。

 

ICOについて

暗号通貨については個別の会計基準をいち早く制定した日本ではありますが、

ICOについてはIFRSと同様に個別の会計基準は未制定です。

ただ、企業会計基準委員会(ASBJ)が、2022年3月15日に「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」を公表し、ICOの会計処理について言及しました。

この「論点の整理」において、ICOは個別性が強い点が指摘されていました。すなわち、一口にICOといっても、その内容はケースによって千差万別ということです。

そこで、「論点の整理」では取引の具体的な内容に着目して会計処理を使い分けるアプローチが提唱されているようです。この点は、IFRSにおける考え方と共通しています。

 

なお、そもそもですが、日本の企業がICOと関わりを持つ事例が極端に少ない点も、ICOに関する会計基準を制定することの困難さに拍車を掛けている感じです。過去に上場企業の決算報告書上でICOが登場したのはたったの1例だけのようです。

メタップス(銘柄コード:6172)という会社の韓国子会社が2017年にICOを実施して資金調達した事例が、2023年1月現在では過去唯一のケースです。

 

この時のメタップスの事例では、韓国子会社が行ったICOは商品・サービスの販売と同視され、前受金が計上されたようです。

そもそも、この韓国子会社が最終的にやろうとしていたのは、「新しい仮想通貨を発行して、その取引所を開設すること」だったようです。取引所を開設するために必要な資金を調達すべく、その取引所で流通する予定の「新しい仮想通貨」を対価として差し出した、ということのようです。

なるほど、確かにそういう内容であれば、商品・サービスの販売として扱われたのも納得感があります。要するに、「新しい仮想通貨」を販売しただけということですね。

 

……ただ、メタップスは当時からIFRSに準拠して有価証券報告書や四半期報告書を作成していたそうです。

日本唯一の事例がIFRSで処理されたということは、日本の会計基準においてICOの処理が実際に問題になったことは未だかつて一度も無い、ということになりますね。

 

なお、メタップスのICOの事例における会計上の論点については、ご参照用として以下の各サイトをご紹介させて頂きます。

ICOに関する仮想通貨の会計処理をメタップスから学ぶ (swd-tax.com)

メタップス社ICOに伴う会計処理について | RSM汐留パートナーズ (shiodome.co.jp)

仮想通貨のICOによる税務・会計処理の事例 (nakata-cpa.com)

ICOの会計処理ってどうなるの!? 【メタップスの例】 – 溝口公認会計士事務所ブログ (hatenablog.com)

 

長くなりましたが、今回はここまでです。

ご閲読誠にありがとうございました!


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